【改題】「わかる」という特権性についての覚書 - シロナガス／星景写真と科学本のブログ

大変に、忙しい。

梅雨で、雨も降るのですが、それだけでもなく、撮影時間がとれておりません。

とりあえず、１回雑記でしのぎつつ。

次回は果たして撮れているのか…。どうか。

とりあえず、サムネイル用に一枚。

雑記

こういう忙しい時は、仕事以外は、基本、本しか読んでないのですが、この間、手に入れた一冊の本についてかいておきたい。

志賀理江子氏のTokyo Contemporary Art Award（TCAA）2021-2023の受賞および、それを受けての制作作品をモノグラム（単行書）化したもの（のよう）です。

www.tokyocontemporaryartaward.jp

Tokyo Contemporary Art Awardは、

Tokyo Contemporary Art Award（TCAA）は、東京都と公益財団法人東京都歴史文化財団東京都現代美術館トーキョーアーツアンドスペースが、海外での活動に意欲をもつ中堅アーティストを対象に2018年から実施している現代美術の賞。
アーティストのキャリアにとって最適な時期に最善の支援内容を提供する必要性を重視する本賞の選考は、公募と推薦を併用し、選考委員によるリサーチや書類選考、スタジオ訪問などを経て2組の受賞者を決定。受賞者には複数年に渡る継続的な活動支援を行います。

という賞のようですね。

以前、私は好きな写真家の一人として志賀氏を挙げたのですが、それは、多分、その時も書いたと思うのですが、図書館で借りて見た「螺旋海岸」から受けた衝撃がものすごかったからでした。

今作のこのTCAAのモノグラムは、この「螺旋海岸」から直接的につながるもの……と思われます。

あの東日本大震災という、そして原発事故という、未曽有の「出来事」に飲み込まれた経験が、まさに、ある一点に収縮するかのような螺旋を描いて、作品に結実しています。

写真評論家の竹内万里子氏は「螺旋海岸」を評して、次のように記しています。

一つの場所と彼女の身体が接近することから生み出されたイメージ――誰のものでもない、もしかしたら誰のためでもない、何一つ明確に語ることをしない不可解な何ものか――であり、彼女もまたそのイメージによってすでに貫かれている。

（竹内万里子著「沈黙とイメージ」より、強調は引用者）

東北の土地に惹かれ、そこに住み着き、暮らし、そして「出来事」によって、一度はすべてを引き裂かれた、そのさなかで形成されたイメージである「螺旋海岸」は、竹内氏のいうように、この上ない「わからなさ」を抱えています。

そして、今回のモノグラムは、「螺旋海岸」の先に立ち、10余年を経て、より深く、東北という土地が抱える歴史的、経済的、社会的文脈を咀嚼しながら、作品として作り出されています。「出来事」の後、ショック・ドクトリンによって押し付けられる「復興」によって、再び、その過去からの因果を繰り返させられようとする、この地点、この時点の同時代性を刻み込みながら、つくられた作品群。

問題意識自体は非常に研ぎ澄まされて、そこに付されるテキストは、ある意味で、驚くほどにまっすぐであり、よくわかるものになっています。

そして、それを、作品にする上で、志賀氏独特の構成写真の手法で研ぎ澄まされたイメージは、やはり不可解であり、理解を拒絶しようとします。

問題意識と手法がこの10余年で研ぎ澄まされたことは間違いなく、そして、その上で作り出されたイメージは、あくまで、「わからなさ」をまといます。

私（たち）は、「わかる」ということの特権性を知らず知らずのうちに享受しているのだろうと思います。マジョリティとして私が「わかる」のは、私がその社会に適合しているからだと言えるでしょう。

そこ（あるいは、ここ）には、「わからなさ」を抱えながら生きざるをえない者が必ずいて、そのこともまたこの社会の一側面として、「わかる」者の生と当然のごとく等価に、けして消し去ってはいけないし、消し去り得ないものです。

「わからなさ」と向き合い、生きるというのは簡単ではないのかもしませんが、「わかる」ことに依存し、わからないことまでもわかったふりをして生きていくことだけはしたくないな、と思うのでした。

と、作品の感想なのか、何なのか、よくわからないことを書いて今日の雑記とします。

ではまた。