シロナガス/星景写真と科学本のブログ

「暮らしの中の星空」=星景写真+サイエンスノンフィクション書評。PENTAX使い。

書評「オウムアムアは地球人を見たか?」

オウムアムアハワイ語で、「遠方からの初めての使者(あるいは斥候)」という名がつけられた2017年に発見された、初の恒星間天体

 

本書「オウムアムアは地球人を見たか?異星文明との遭遇」(アヴィ・ローズ著、松井信彦訳、早川書房、2022年)は、そのオウムアムアの観測データを元に、異星文明の存在可能性を論じていく。

 

 

異星文明の可能性

結論から、先に述べておくと、巻末で国立天文台渡部潤一教授が補足しているように、オウムアムアが、異星文明の何かしらの遺産である可能性は、非常に低くなっている。

しかしながら、本書が提起をする異星文明の可能性の示唆の醍醐味は、人類の視野、科学の視野を押し広げる点にある。

 

オウムアムアが、人類が初めて遭遇したたぐいまれな天体だったことは疑いない。

太陽系近傍の恒星系の空間移動の平均値=局所静止基準とほぼ一致していたことや、太陽系内で太陽の重力を振りはらって加速し、太陽系を脱出したのに、通常の彗星が太陽に近づいた時にみられるような尾(ガスの噴出で、彗星を加速させる)が観測できなかったことなど、かなりの異例の天体であったと言える。

本書では、かのガリレオのセリフといわれる「それでも地球は周っている」をもじり「それでもオウムアムアは逸れていた」と書かれている。

オウムアムアが、これまでのメカニズムでは説明できないが、太陽の重力以外の何かしらの力を受けて、予測される軌道から「逸れて」飛行したのは間違いないようだ。

最初の、恒星間天体が、これほど奇妙なふるまいをしたことが、謎を大きくしている。

 

著者であるアヴィ・ローズは、これらの観測データを、綿密に考慮して、オウムアムアが、知的生命体がつくりあげた人工物である可能性を指摘した。具体的には、局所静止基準とほぼ一致していた点から、宇宙に浮かぶブイのような役割があったのではと推測し、加速は太陽光を受けて進むライトセイル太陽風を受ける帆)状の構造をしていたのではないかとの説を発表する。確かに、矛盾なく観測データと整合する。

そうであるとすれば、問題は、この地球の人間以外に、どこかの星にいる(いた)かもしれない知的生命体の存在を認める必要があるという一点だ。

 

彼がこのような意見を公にしたのは、ある種、戦略的な視点からと言える。

本書で、強調されるのは、研究者はこれまでに定説になっていることを研究し発表する方が、リスクを負わず、職につける可能性も高い、という科学界の構造、いうなれば硬直性だ。ローズは、自分の説が、あくまで異説(アノマリーであることを自認しながら、若い世代が柔軟な発想を行い、科学の未来を切り開いてもらうことを、呼びかけている。

 

スターショット計画

このアヴィ・ローズの名は、知らなかったのだが、彼の研究のいくつかは、非常に広く知れ渡っている。

太陽系から一番近い恒星であるアルファ・ケンタウリに向けて、観測船を飛ばす計画=スターショット計画も彼の発案だ。

ライトセイルを備えた小型デバイスに強力なレーザーを当てることで、片道切符で光速の3割ほどまで加速し、アルファ・ケンタウリ近傍でフライバイして地球に向け観測データを送るというものだ。光速の3割なら、アルファ・ケンタウリまで、20年ほどで到達できる。

また、アンドロメダ銀河と我々の銀河系は、将来衝突し、ひとつの銀河になると言われており、そのひとつになった銀河にミルコメダと名付けたのも彼である。

 

彼の、ユニークな視点は、これからも、科学の世界に、話題をつくり続けるだろうことは間違いない。

 

 

インスタグラム(とスレッズ)もよろしくお願いいたします。

【星景用アカウント】

https://www.instagram.com/yamamotofhironaga/

【日常用アカウント】

https://www.instagram.com/a_life_yfh/

【スレッズ】

https://www.threads.net/@a_life_yfh