科学とは、何だろう?と考えたときに、「科学の無限の可能性」などといった言葉に象徴されるように、一般的にその「万能性」がもてはやされる場合がある。
しかし、科学の本質がどこにあるかは、おそらく逆から見たほうがよいだろう。つまり、科学は、それ自身が内在する限界性にこそその本質的意味を持っているのである。
本書は、歴史に残る5人の科学者と彼らが生涯でおかした最も大きな科学的誤りについて、丁寧な取材をもとにその理由と過程を解き明かす。
科学史の魅力
サイエンスライトの中で、人気のあるテーマに、科学史がある。
様々な科学分野ごとにその発展をおったサイエンスライトは数多く出版されていて、私も、かなり好きなテーマだ。
特に、科学者自身の魅力が伝わるような「科学史」ものは、冒頭に述べた科学の限界性に挑む勇気ある科学者たちの物語を私たちに伝えてくれ、サイエンスライトを読む最大の魅力のひとつといえる。
その中でも本書がユニークなのは「誤り」をテーマにしたことである。
それぞれの科学者が、何をどう誤っていたのかは、ネタバレをせず、本書を読んでもらうとして、成功譚だけにおわらない失敗の物語を書くことで、科学が限界に突き当たりながら一歩ずつ進んできたことがよくわかる内容になっている。
丁寧な取材
本書は宇宙物理学者のマリオ・リヴィオによる著書で、この前にも数冊のサイエンスライトを書いているようだ。
本書を語る上で欠かせない特徴は、著者が非常に丁寧な取材をしているということである。書簡などの一次資料にあたり、周辺の人物への聞き取りなども可能な限り行っている。参考文献の数も膨大であり、23ページのリストが巻末についている。
なぜ、彼らが失敗をしたのかは、最終的には本人にしかわかりえないのかもしれないが、丁寧な取材によって、著者が提示する推測に大きな説得力を持たせている。非常に質の高いサイエンスライトではないだろうか。著者の丁寧な取材に敬意を表したい。
特に、アインシュタインが宇宙項Λについていったといわれる伝説的なセリフ「宇宙項の導入は、生涯最大の過ちだった」という言葉についての検証も見逃せない。
書簡などの一次資料にあたることで、この言葉は、あくまでガモフの創作ではないかという説を唱えている。これも、かなり説得力のある内容である。
科学の本質を偉大な失敗に学ぶ
本書で、取り上げられた、ダーウィン(進化)、ケルヴィン卿(地球の年齢)、ポーリング(遺伝学)、ホイル(宇宙論)、アインシュタイン(宇宙定数)は、科学史に燦然と輝く偉大な科学者である。
その科学人生の中にそれぞれ「偉大な失敗」があるという事実は、科学がけして「万能」ではないことを明らかにしているのではないだろうか。もっと言えば、科学には限界があるのだ、と突きつけているようにも感じる。
だが、科学には限界があると突きつけられたからといって、そこには、科学の狭さは感じない、感じるのはあくまで科学の持つダイナミズムである。知識と理解の跳躍を見せながら、時に限界に足踏みもする。だからこそ、科学は魅力的なのだといえるのは間違いない。