シロナガス/星景写真と科学本のブログ

「暮らしの中の星空」=星景写真+サイエンスノンフィクション書評。PENTAX使い。

【書評】進化の法則は北極のサメが知っていた

法則。

生物学において、法則と呼べるものはほとんどない、と著者は指摘する。

著者は生態学者として、北極のニシオンデンザメ、南極のアデリーペンギン、オーストラリアのホオジロザメなど、世界各地で野生動物に小型の計測計を取り付けるバイオロギングという手法で生態調査を重ねながら、生物全体に当てはまるような法則を探し求めていく。

 

生物学のゴールとは

著者は、本書の中で生物学のゴールとは何かを端的にしめす。

生物を研究することによって、その種のみならず自然界全体に適用可能な深い知見を引き出すことが、生物学の正統な道である。結局のところ、生物学の究極のゴールは進化の謎を解き明かすことにあるのだから。

たしかに、かのチャールズ・ダーウィンは、ビーグル号で世界各地を巡り様々な生物種を実際に観察する中で、進化の法則=自然淘汰を見つけ出した。

そのダーウィンに倣うかのように、著者は、著者の言い方によれば生物全体を俯瞰する「人工衛星の目線」から、生物全体に適応できる法則性を探っていく。

著者が開発したバイオロギングの独自手法によって、動物の体温の記録を手掛かりにして、この野心的な難問に挑んでいく様子は大変興味深い。

構成上も、世界各地を訪れながらの多彩な研究活動を紹介しつつ、その章の最後には、その生物の行動記録から、何が見出いだされるのか、読者にもわかりやすいようにまとめられていて要点がつかみやすい。

ニシオンデンザメという巨体+低体温の超長寿命(性成熟するまでに150年、寿命は数百年に及ぶ)のサメ、南極の寒さの中で暮らすアデリーペンギンの体温保持のための食料事情、ホオジロザメの変温動物の魚類としては高い体温ではあるがあくまで恒温動物との中間的といえる特徴など、体温を基礎に、生物が、多様なやり方でこの世界の隅々に適応している様を描き出していく。

本書を読み進めるうちに、生物の多様な生存戦略の裏には、体温の背後にある代謝が大きなカギを握っている様子が浮かび上がってくる。

 

多様なフィールドの魅力

著者による世界各地での生態調査の現地の様子の描写も本書の魅力だ。

科学というのは、ともすれば、無味乾燥にも思われがちなものだが、もちろん、そんなことはない。本書に限らず多彩なサイエンスノンフィクションが、科学の人間的な面白さを伝えている。本書で言えば、現地での研究仲間や協力者との交流からはじまり、強烈な船酔い、ロシアのウォッカ事情など人間的なエピソードが面白い。

科学が、血の通った人間の営みであることを垣間見せてくれる。

著者の「本気になれる」ものに取り組みたいという思いが、過酷でもあり、非常に魅力的でもあるユニークな研究活動を支えている。これからも、「人工衛星の視点」から生物とは何かを俯瞰して、進化の法則を見つけ出すために研究し続けていくだろう。

動物の行動パターンは往々にしてノイズだらけで一見としてそれとわかるパターンなどないのだと著者は指摘する。その中から正確さとシンプルさのバランスがとれた自説をひねり出そうと努力することこそ、生態学の魅力だと述べる。そして、それは人生に似ているのだという。私たちの身の回りで起こる出来事や社会は、本当の因果関係などだれにもわからず大雑把なパターンとして把握するしかないのだ、と。

確かに、著者のいうように、社会というのは、一見、わかりづらい。そして、そこに読者としての私の意見も付言させてもらえるならば、著者がそのわかりづらい生態学の中に魅力を感じるように、私もこの社会の複雑な様子の中に、示されるべきある種の法則が隠れているようにも思い、そこに社会と自分とのかすかだが強いつながりを感じざるを得ない。

ともあれ、まだ40歳代の著者は、これからも、様々なフィールドに出かけ多様な研究活動を行っていくことだろうと思う。今後の活躍にも大いに期待をして、著者の次の著作を待ちたい。

 

 

 

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