シロナガス/星景写真と科学本のブログ

「暮らしの中の星空」=星景写真+サイエンスノンフィクション書評。PENTAX使い。

【書評】世界を変えた50人の女性科学者たち

ホモ・サピエンスとしての人類の歴史は、科学の歴史であるといっても過言ではない。この世界をよりよく理解しようという渇望にもにた欲求が、歴史を前へ前へと進めてきた。

その科学の世界から、女性が排除されていた時代というのは、それほど昔のことではない。いや、今もまだ、その障壁は残り続けているのかもしれない。

本書は、50人にしぼって女性科学者の業績を振り返り、この理不尽と不条理とを超えて歴史を前に進めた姿を描き出す。

そこに見出せる強い意志は、読者に、不条理とたたかうものの気高さを感じさせざるを得ないだろう。

 

 

人類の可能性を切り開く

この本を眺めると、女性がありとあらゆる科学の分野で活躍しているのが分かる。物理学者、数学者、地質学者、天文学者生物学者、医師…、ありとあらゆる科学の分野にその先駆者の足跡は残されている。

このこと自体が、押さえつけられたとしても、抑圧されたとしても、道が閉ざされたとしても挑戦することをやめず、未来を切り開かずにはおかない人類の本質が現れているようにも思う。

この本から、いくつか女性科学者の言葉を紹介したい。

「あなたはいつでもはじめることができるのです。優秀になるには一生かかるとしても」(エスター・レダーバーグ、微生物学者、1922-2006)

「賢い頭脳と人間的な心が共に働くときにのみ、私たちは自らの最高の能力を発揮することができるのです」(ジェーン・グドール、霊長類学者、1934-)

「もし現在の社会制度が女性の自由な成長を認めていないのなら、社会が変わるべきです」(エリザベス・ブラックウェル、医師、1821-1910)

「エンパワメント(力をつける)とは、まず第一に、自分には参加する権利があるのだと理解すること。第二には、自分は何か重要なものを持っていて貢献できるのだということ。そして第三に、それを活かすのに危険を冒す覚悟が必要になるということです」(メイ・ジェミソン、宇宙飛行士、1956-)

「もし自分たちは(絶対的な真実に)到達したと思い込んでしまったら、私たちは探ることをやめ、発展することもなくなるでしょう」(ジョスリン・ベル・バーネル、天体物理学者、1943-)

 

彼女たちの言葉は、男女の違いを超えて普遍的に心に響くものであると同時に、科学への参画に障壁があったがゆえに、逆説的に、それを乗り越える力強さを帯びたものになっているといえるのではないだろう。実際に、彼女らの中の多くが、女性参政権や女性の権利、貧困や差別の解消を求める社会運動にコミットして、時代を推し進めてきたことは特筆に値する。抑圧された者の抵抗とたたかいの中で、人類の可能性が押し広げられたことを我々は忘れてはならないし、忘れることはできないだろう。

 

ノーベル賞級の発見をしつつも、ノーベル賞を受賞しなかった女性科学者が何人もいることは非常に悲しいことでもある。

この種の不条理の中で最大のもののひとつは、ロザリンド・フランクリンのエピソードではないだろうか。

彼女は、DNAの二重らせん構造のエックス線回折写真を撮影したが、それを許可なく盗用・剽窃したジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックに、その「DNAの構造の発見」という栄光を奪われてしまった。本来ならば、ワトソンとクリックに1962年に与えられたノーベル賞は、彼女にこそ与えられるべきものだったのである。しかし、彼女は1958年に37歳の若さで亡くなってしまっており、この名誉が回復されないままになったことは、科学の歴史においても最大の不正義のひとつとして記憶されなければならないだろう。

 

科学の負の側面

また、科学の歴史の中でもう一つ大事なのは、その負の側面である。兵器や武器として使われた科学技術というのは、枚挙にいとまがない。

その最たるものが、あの1945年に落とされた二つの爆弾、原爆核兵器)であることはいうまでもない。

この本の中にも、幾人かの女性科学者がこの原爆開発にかかわっていた記録がつづられている。

この本をただの女性礼賛の本にしたければ、この記述は必要なかったのではないかとも思う。事実として、原爆開発には女性科学者よりも多くの男性科学者がかかわっていたし、原爆開発にかかわった彼女らにしてみてもその他に多くの功績を残してもいる。

しかし、作者があえて、女性科学者の原爆への関与を書き記したのは、やはり、科学の負の側面へも、読者の目を向けたいと考えたからではないだろうか。

あの1945年に、広島と長崎に落とされた2つの原爆は、人間の想像でしかなかった地獄をこの世に出現せしめたという意味で、一方の極の科学の到達点を指し示している。

私は、人間の尊厳にかけて、核兵器の存在を容認できないし、肯定もできないが、同時に、その存在を忘れてしまえばよいというわけではない。人類は、この科学の負の側面にも目を向け、目をそらさずに、自らを制御しながら、未来へ進まなければならないのだろう。

 

女性科学者が困難へ立ち向かい、道を切り開いてきた歴史を思う時、われわれは、むしろ人類の大きな可能性を目にすることができる。差別や経済格差などの障壁がなく、人類全体にこの科学への道が開かれたならば、もっと多くの発見や進歩が得られるだろうことは想像に難くない。この本が、どこかで、科学の将来を担う少女の(もちろん、少年にも!)手に渡り、未来を切り開くきっかけになるとすれば、これほど素晴らしいことはない。

 

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