科学的知見というのは、どの分野でもそうだと思うが、絶えず新しい発見によって書き直されながら、日々、磨かれている。磨きあげらた新たな知見は、それまでのものとは大きく姿をかえてしまう(それこそ、革命的に)ということはよくあることだ。
本書は、そんな移り変わる科学の姿を垣間見せる。
テーマは、「恐竜」。最新科学が恐竜の姿をどう変えてきたのか。現時点で到達しえた恐竜の実像を伝えてくれる。
著者のスウィーテクは、有名な恐竜ブロガーで、これがサイエンスライト2作目。1作目は、「移行化石の発見」という本で、こちらも面白かった記憶がある。
恐竜にそれほど明るくない私のようなものにも、著者の恐竜愛が、バシバシ伝わってくる。なんとも愛あふれる一冊だ。
なぜブロントサウルスか?
実は、もうブロントサウルスと呼ばれる恐竜はいないのだそうだ。
ずんぐりとした巨大な四足恐竜だという漠然としたイメージがあるが、いまでは、アパトサウルスという種に一本化されているとのことで、恐竜ルネサンスともよばれる大幅な恐竜のイメージの書き換えの象徴として、著者は、子供のころから愛したブロントサウルスをこの本のマスコットにしたようだ。
訳者のあとがきにも書かれているが、表紙には花束を「ブロントサウルス」に差し出す著者の姿が描かれていてユーモラスだ。
恐竜の何が変わったか
そもそも、私自身そんなに恐竜にくわしくないのだが、恐竜には羽毛があったまた、鳥類は現在に生き残った恐竜の系譜であるという最近(?)有名になってきた話も含めて、いろいろな論点で新恐竜像を紹介する。
いくつか抜き出すと。
恐竜が、地上を支配した理由。これは、競争に勝ったからではなく、その前に反映していた生物種が絶滅したことでチャンスをつかみ多様に進化したということらしい。
恐竜が巨大化した理由(竜脚類という種類は20~30mにもなる)としては、親が多大なコストをかけて体内ではぐくみ生まれてからも一人前まで世話をして育てる哺乳類と違って、小さく卵で生んでほどほどの時期までしか世話をしなかったことで、逆に、地上生物が到達できる限界近くまで大きくなったのだという。(親が子にかけるコストの制約が、子の成長の制約になるのだ)
頭骨化石の内部の空洞を調べることで脳のモデルをつくり、どの領域が発達しているかで、その恐竜の発達している感覚が聴覚なのか嗅覚なのか、などを把握するという手法も開発されているらしく驚きだ。あわせて内耳の骨を詳しく調べることで、一部の恐竜では鳴き声(親は低く、子はかん高い)が重要なコミュニケーション手段だったことも明らかになっている。
化石を科学的に詳細に調べ、またワニや鳥など現代にいきる恐竜の親戚を詳しく調べることで恐竜自身の特徴を類推するなどして、着実に恐竜の実像に迫っている。
科学は常に試される
今日僕らの知っていることは、明日知ることによって問われ、試されるだろう。
本書エピローグの著者の言だが、これは、恐竜に限ったことではないだろう。
恐竜についても、もちろんその実像は、まだまだわからないことも多い。これから刷新され続けていくだろう。
面白いのは、訳者あとがきで紹介されているが、アパトサウルスに統一されて消えたブロントサウルスの骨格を詳しく調べなおした結果、アパトサウルスとは別の種といえる特徴が十分にある、という直近の研究報告が出されたとのことだ。これが認められればブロントサウルスは復活する。
なるほど、書き換わっていく科学的知見はなんとエキサイティングだろう。簡単に予測はつかない。
本書を読んで著者の恐竜愛に触れた一人としては、著者の喜ぶ顔が目の前に浮かぶようで、なんとなくうれしい。