人類の宇宙観の進展は、非常に目覚ましいものがある。
本書は、いまや、ゆるぎない定説となった「宇宙はビッグバンから始まった」という宇宙論について、古代の宇宙観から、解説していく。
上下巻にわかれているが、通読をお勧めする。
◆地動説か天動説か
上巻前半ではまず、地動説か天動説かをめぐる論争を描いていく。
天動説つまり宇宙の中心に地球があるという世界観から、地動説=太陽中心の世界観への変遷を丁寧に描く。
地動説といえば、コペルニクスやガリレオを思い浮かべるが、すでに古代ギリシア時代に、地動説の源流があったことは驚かされる。
紀元前310年生まれのギリシア人哲学者・アリスタルコスは、太陽を中心に地球が回っているという正しい結論を得ていた、という。
しかし、彼の地動説は1500年の間忘れさられることになる。
著者は、その理由を次のように上げている。
1、地球は動かないという(当時の)常識に反していた。
2、科学的吟味に耐えられないように思われた。
①地球が猛烈なスピードで動いているなら、我々はなぎ倒されるはずだ。
②当時の重力観、宇宙の中心にすべてが引っ張られる、に反する。
(したがって、地球は中心にあり動かず、物は地面に向かって落ちる)
③地球が動くなら、夜空の星の位置が変わるはずだが、変化していない。
(もちろん、視差があり、星の位置は変化しているのだが、当時の装置では
観測できなかった)
うーむ、惜しい。
しかし、1500年の時を経復活した地動説が、その後、科学的事実となっていくのは私たちが知っているとおりである。
◆ビッグバン理論に至る
ビッグバン理論に進む前に、私たちの住む天の川銀河についての認識が深まっていく過程がある。
これは、望遠鏡の発展の歴史と重なっている。
つまり、観測精度が上がる中で、また、遠くの星の距離を測る方法が確立される中で、天の川銀河を超えてはるか遠方に別の銀河が存在しているということがわかってきたわけだ。
私たちの太陽系が片隅に属するような巨大な銀河がひとつでなく、この宇宙に無数に存在する。
この宇宙論の進展。でかい、でかすぎる。
たしかに受入れがたかっただろうと思う。
ちょっと冗談みたいなでかさだよな。
そして、科学者は、とうとう、すべての銀河は、後退しているということを発見する。
では、それを巻き戻せば…どうなるのか?
宇宙は始まりの時に、ある一点に凝縮されるのか?
世界はある点から始まったのか?
ここにおいて、人類は、ビッグバン理論にたどり着く。
うむ。あとは、とにかく読んでみてほしい。
用語集もついていて、非常にわかりやすいのが本書の特徴だ。
著者のサイモン・シンもサイエンスライトの世界では名の知れた人で、しっかりとした技量で、理解しやすく伝えてくれる。
最後に下巻に収録されている、さまざまな人物の発言集「科学とは何か?」の中から、特にお気に入りの一言を引用して終わりたい。
科学哲学が科学者にとって役に立つ程度は、鳥類学が鳥たちにとって役に立つ程度と同じくらいのものである。 リチャード・ファインマン(1918-88)アメリカの物理学者
いずれ、私の好きなファインマン関係の著作も紹介したいと思う。
ではでは。