シロナガス/星景写真と科学本のブログ

「暮らしの中の星空」=星景写真+サイエンスノンフィクション書評。PENTAX使い。

【書評】冥王星を殺したのは私です

優れたサイエンスノンフィクションというのはどんなものか。

もちろん、いくつも条件はあると思うのだが、…、ひとつは、ある分野の科学の知見について、わかりやすく的確にかかれていること。二つめは、それを進める科学者の姿が見えること―できれば生き生きと伝わること。

冥王星を殺したのは私です」は間違いなくこの2つの条件を満たしていて、非常に優れたサイエンスノンフィクションになっている。

 

 

 

惑星探査の科学

系外(太陽系外)の惑星の探査は、かなり、メディアでも取り上げられることが多く、近くの(といっても近くても数光年と遠いのだが)恒星系で地球型の惑星が見つかったというようなことがニュースになったりする。生命はいるのかなど関心も高い分野だ。

この本で扱っている惑星探査は、それとは違い太陽系内の惑星を探すもので、著者のマイク・ブラウンもその専門家だ。

 

太陽系の端に広がるカイパーベルトに、惑星を探すということを主眼に、長年、研究に取り組んできた。本書は、まず、彼の研究遍歴を彼自身の目で振り返る。ほかの科学者や技術者との交流も織り込まれていて、惑星探査科学の営みの一端を目の前に描き出してくれる。

 

2つの事件

惑星探査をする中で、彼は2つの事件に遭遇する。ネタバレにならないようにひとつは、おいておくとして。

もうひとつは、明かしても問題ないだろう。なにせそれはすでにタイトルになっている。冥王星を殺す」事件だ。

国際天文学会は2006年に冥王星準惑星に分類することになるわけだが、その過程で、彼が発見した天体(今では、エリスと呼ばれている)が、冥王星に非常に近い大きさを持っていたことなどから、冥王星の惑星としての地位が揺らぎ始め、最終的には、天文学会で、準惑星というカテゴリーを与えられ、その過程で、冥王星の位置づけも変えていく論争になる。

 

いわば、彼は、長年の夢としてきた惑星の発見をしそこねたわけだが、彼自身、「冥王星は惑星とすべきでない」という立場で、この論争に加わっていく。自分の発見した天体も道づれに、冥王星と刺し違えた形だ。

ちなみにエリスは不和と争いの女神の名で、ことの顛末を知ると、なんともぴったりの名が残っていたものだと感心する。

 

家族との姿も描く

この本の大きな特徴は、最初に挙げた、科学とそれを営む科学者という要素にさらにひと手間くわえて、彼自身のプライベートな面、妻や子どもとの交流にも紙面が割かれているのが特徴だ。

科学者も一人の人間。いろいろな場面で迷うこともあるが、家族との絆の中で、決断を重ねていく姿は、人間味あふれ共感を呼ばざるをえない。まだ1歳にもならない娘との交流の場面などはぜひ読んでほしい名場面だ。

この点が、この本を数あるサイエンスノンフィクションから一歩抜きんでたものにしているのは間違いない。

 

冥王星はそれでも存在する

冥王星ファンというのは、たくさんいるようで、著者もなぜ冥王星準惑星にしたのかと詰め寄られることもあるようだ。あくまで、惑星という科学的概念をはっきりさせた決定だというのが、著者の弁であり、私もこの点に納得をする。

しかし、分類が変わっただけで、冥王星はしっかり存在するのもまた事実だ。昨年には、探査機ニューホライズンズが冥王星をフライバイし、地表の細かな特徴も含めて詳細な画像データを送ってきた。これをもとにした分析が続けられてもいる。準惑星になったとしても、太陽系の端に位置するこの冥王星という星に興味は尽きない。

いまや8つになった惑星。

はたして、9番目の惑星が太陽系に見つかる日はくるのか。来ないのか。

著者は、いつか9番目の惑星をみつけようと、研究を続けている。

 


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