シロナガス/星景写真と科学本のブログ

「暮らしの中の星空」=星景写真+サイエンスノンフィクション書評。PENTAX使い。

【書評】21世紀に読む「種の起原」

本書は、ダーウィン著「種の起源」の解説本だ。

なるほど、一言でいってしまえば、それはそうなのだが、解説本という言葉の響きが含む軽めのニュアンスからは、良い意味で裏切られる本格的な進化論=ダーウィニズムの総論といえる。

とにかく、重厚。軽めのつくりではないけども、文章自体は率直で読みやすい。

570ページ超(厚い!)の中に、種の起源の丁寧な解説と、その後発展してきた現代生物学の概説まで含む非常に贅沢な一冊である。

著者は、サイエンスノンフィクションとしては、これが初の著作のようだが、グッピーの進化の研究で有名なレズニック氏ドーキンス著「進化の存在証明」に登場している)。また、訳者は、ドーキンスの著作をはじめ、進化論関係の訳書が多い垂水雄二氏。少なくとも訳者のお名前を見て、これは、はずれはないなと感じて読ませていただきました。

 

◆「種の起源」への道しるべ

ダーウィンの「種の起源」は、生物学にとって、まさに画期をなす著作だ。明確に種の起源」以前と以後に分かれる、そんな本である。

種の起源」は、サイエンスノンフィクション界の大物中の大物、古典中の古典、最もマストな一冊といっていいのではないだろうか。

一方で、本書にあるように、「もっとも幅広く言及されるが、もっとも読まれることの少ない本のひとつ」とも評される。

かくいう私も、実は上下巻のうち上だけ読んで止まっていたりするのだが(笑)

 

レズニックのこの一冊は、「種の起源」を、生物学の歴史の中にしっかりと位置付けて読み解く道しるべとなってくれる。

 

◆「種の起源」を再構築する

種の起源」がわかりづらくなっているのは、自然淘汰と種分化の概念を混然一体に説明しているからだと著者は言う。

これを分け、「種の起源」全体を再構成しながら、第一章では「自然淘汰」について、第二章は「種分化」について、第三章は「理論」としてダーウィンが進化の観点から、生物学を横断的・統一的に説明した部分を解説していく。

著者の手によって「種の起源」が再構築されるわけだ。

これがなかなかわかりやすい。最後には、種の起源と本書との対応表も示されていて、親切極まりない。

 

ダーウィンの生きた時代背景と科学的なコンセンサスを押さえながら、種の起源の中身へと切り込んでいく。

ダーウィン種の起源を、当時の主流であった種の個別創造論への反論として書いているということ、また、当時の科学的な限界も踏まえて説明していく。

当時は、遺伝について、メンデル遺伝の考え方は普及しておらずコンセンサスを得ていなかったので、当然ダーウィンは、遺伝のメカニズムをわからずに、種の起源を著わしている。(このあたりは、以前に紹介した↓の「偉大な失敗」にも詳しい)

 

だからこそ、ダーウィンの洞察力の深さが光るのだが、彼の理論の本来の基本となるべき遺伝メカニズムに致命的な思い違いがあったとしても、種の起源が本質として正しいということは、これまでの生物学の発展の歴史が証明している。

ちなみに、訳者があとがきでまとめてくれているが、ダーウィンの時代に未発見だったものとして、遺伝学、DNA、放射年代測定法、プレートテクトニクス理論などを挙げている。このどれ一つが欠けても、現代生物学の理解はかなりの困難を抱えるだろうと思われるのだが…、ダーウィン恐るべしである。

そこまで踏まえて、この本が一冊で押さえてくれている。いやあ、まさに、こんな本を待ち望んでいた。最高(ファンタスティック)なサイエンスノンフィクションだ。下半期ベストはもとより、私が読んだ中では、今年一番といっていい出来だろう。すばらしい。

 

◆現代生物学の発展

ダーウィン以後、生物学は急速に発展して、科学の巨大分野となる。

本書では、「今日の進化論」という一節が各章に設けられていて、ロンドンの地下鉄における蚊の進化についての考察や、著者の専門であるグッピーの進化についてなど、ダーウィンが当時考えていたよりも進化は急速に進むことも示されている。

生物学の歴史も学べて、種の起源も理解できて、現代生物学の発展にも触れられる。本当に贅沢…。まさにフルコース。ただし、ほんとに厚いので、じっくり腰を据えて読んでほしい。

 

◆参考文献

最後に、著者と訳者が挙げてくれている参考文献を自分用にもメモしておきたい。

 

 まず、種の起源上下。下も読まねば(笑) このアマゾンの奴をみると、下の方が明らかに、購入者もブログ件数も少なくて面白い。みんな途中で挫折してるんだな(笑) 変に励まされるなあ。

 

 

これには、ロンドン地下鉄の蚊の話が出てくるようだ。読みたい。これも今年の本なのか。

 

これは、最適な変異とはどのようなものかという、進化の源泉となる変異の謎について書かれているようです。これも今年の本…。読んでも読んでも読まないといけない本が出てきますね。

 

頑張って読まねば。人生は短い。

まずあれだ、種の起源の下巻からですね(笑)